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医師のキャリアをとりまく環境・未来
真野 俊樹1987年名古屋大学医学部卒業。医師、医学博士、経済学博士、日本内科学会専門医、MBA。臨床医を経て、95年9月コーネル大学医学部研究員。外資系製薬企業、国内製薬企業のマネジメントに携わる。その後、昭和大学医学部(病院管理学担当)専任講師を経て、現在、多摩大学医療リスクマネジメントセンター教授。 医師と医療経済 第1回医療経済というと医療経済、と話した場合に、もちろん賛成される医師の方と反対される医師の方がみえます。反対の医師の方の反応は、僭越ながら二種類に分かれるようです。医師にそんなものは必要がない、といわれる方、もう1種類は、ややこしいものは学びたくない、という反応をされる方です。しかし、深く知る必要はないのですが、そういった考え方が必要な時代になってきていることは間違いないようです。 「いのち」に値段はつけられるのかいのち」に値段はつけられるだろうか。「生命は地球より重い」と言われる。一つのいのちを救うためにあらゆる手を尽くすことが医者をはじめ、看護師、薬剤師など医療に携わる者の使命である。これまでの医療界では「いのち」の価値は無限大で、そもそも「いのち」に値段をつけるなどといったことは考えられなかったし、それは一般道徳の範疇では許されないことであった。 しかし、目を海外に転じてみると、たとえばアメリカでは保険に入っていないために急病になってもなかなか病院に行くことが出来ない、手遅れになってしまうということがしばしば起こる。これは、ある意味では「いのち」とお金を秤にかけているとも言える。また、日本でも、たとえば生体肺移植のような手術では何千万円という厖大な医療費がかかるが、すべての人にその費用が払えるわけではない。 これは、わたしが今月の25日に発刊する「入門医療経済学−「いのち」と効率の両立を求めて」の前書きの文章です。 医療の技術進歩によって最先端ではるが高額な医療が実施可能になりました。したがって、地獄の沙汰ではなく、命の沙汰も金次第の場合もすこしづつではあるが生まれてきているのです。 一方では、財政の問題、なかでも高齢者が多くなっていくために医療費の増加が予想され、その費用を政府が面倒見切れない、というのもうひとつの視点もあります。 この問題にいち早く取り組んでいる国は米国です。米国では、保険が民間で経営されており、医療費の問題も含め非常に敏感だったのです。もちろん、わたしはここで米国を見習うべし、と言っているわけではありません。ただ、日本の医師にとっても一番なじみが深い、米国の医療現場をすこし違う視点で眺めてみたいと思います。 わたしの米国体験私事ではありますが、わたしの米国体験をご紹介しましょう。わたしは1995年から1997年を米国のマンハッタンで過ごしました。この1990年代の半ばというのは、当時はまったく認識はなかったのですが、管理医療といわれるマネジドケアの全盛期でした。簡単に言えば、医者が行う医療に、保険会社が注文を付けるという世界があったのです。 当時のわたしは、これを聞いてとても驚きました。それまで、名古屋での医療機関、日本で医療しか知らなかったわたしにとっては初耳であったからです。 日本から医学研究のために米国に留学する医師の方は多いと思います。ただ、残念なことに、留学先が必ずしも都会ではないので、このような医療を取り巻く動きに敏感ではなかったようです。 もとい、今では違うかもしれません。ちょうどわたしが米国にいた1995年頃というのは、インターネットが普及し始めの頃で、E-メイルもさほど使用されていなかった時代ですから、いまの留学されている皆さんは、そんなことはないかもしれません。 マネジドケアとはアメリカは国民皆保険ではなく、多数の民間の企業が健康保険を販売しており、多くの人はこれらに加入しています。ここで、医療経済にも大きな関係がある、マネジドケアとは何かをみていきましょう。 簡単に言いますと、医療保険者が医療を提供する者に医療費を適正化する目的で医療管理手法を用い医療費を抑制する動機づけを行うシステムの総称がマネジドケアといえましょう。場合によっては、医療を受ける人にも医療機関を指定しますので、受診を減らしているとも言えます。 米国ではHMO・PPOという仕組みを指してマネジドケアと呼ぶことが多いのですが、 HMOの場合は Primary Care Physician (PCP) を指定し、殆どの場合はその医者を窓口にして専門の医師の紹介を受けることを指定します。すべての医療サービスが,HMOに参加している病院,医師などから提供されること,いいかえれば加盟していない病院,医師からのサービスは受けることができない仕組みです。 また、医師に対して保険者は、会員1名いくらという形で人頭払いで支払うのが特徴です。当然、医療費の上限は決まってしまいます。 もうひとつのPPOとは何でしょうか? さすがにHMOでは制限が厳しすぎるという声を受けて発展しました。すなわち、PPOはどの医療機関に掛かっても何がしかの給付を受けられるようにし、特にPPOネットワーク内の医療機関での医療に対して医療費の割引が受けられるようにしたものです。 医師の苦悩大雑把に言えば、上述のような仕組みをマネジドケアといいますが、単なる会員医療ではなく、医療費の抑制が大命題にあるものですから、医療行為にも介入してくることから大問題になりました。まさに、医療費あるいは保険といった経済の世界から、医療という「聖域」への介入が起こったのですから。 わたしの留学当時の米国の医師たちは、非常に疲労感がたまっていました。それは、述べてきたような医療への介入が不愉快であったというだけではありません。 この、医師の苦悩については次回に述べましょう。 |
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